大学生の時に居酒屋でバイトしていた。
『チヒロちゃん』は同僚で確か同じ歳だったと思う。
『チヒロちゃん』は当時付き合っていた彼に「名前が『チヒロ』だからカラオケで絶対歌われるんだ」と言って歌ってくれた。
9分もある歌だ。
『チヒロちゃん』とは1年くらい働いたと思うけど、顔もおぼろげでバイトのエピソードもほぼ思い出せない。薄情なことに。
だけど、この歌だけは私の中で折に触れて思い出す。
電車の中、車の中、飛行機の中。必ず夕方と夜の間の暗いとも明るいとも言えない空の時間帯に。
『チヒロちゃん』の歌声も、歌が上手かったか下手だったかも思い出せないのに。
私はこの歌に大した思い入れもエピソードもないのに。
「私が『チヒロ』だからカラオケで絶対歌われるんだ」
カラオケの薄暗い部屋の中呟くその響きだけ、漫画のNANAみたいに切り抜かれてエモーショナルな気持ちにさせる。
なぜか今の今まで握りつぶさないように持っていた。大事なわけでもなかったのに。思い出の中異彩を放つ。
飴玉を舌先で転がすように口ずさんでしまう。
『チヒロちゃんあなたはかわいいひと』
銀杏BOYZと言えば『銀河鉄道の夜』と『東北新幹線はチヒロちゃんを乗せて』
(銀河鉄道の夜はどちらかと言えばGOING STEADY かな)